「ピーチク・パーチク」問題


半年間の「ちりとてちん」も、間もなく前半が終了します。
ドラマの中で、B子の徒然亭入門のきっかけにもなり、
草若師匠のカムバックにもつながり、と。
前半で、デーンと重要な位置をしめた落語が、
おなじみの「愛宕山」(あたごやま)でございますが。


こんな投稿が寄せられました。
かなり高踏な修辞と構成による長文ですが、
仰りたいことは、簡潔。


ドラマづくりの基本姿勢を問うている
貴重な投稿と拝察いたしましたので、
そのまま、ノーカットで全文をご紹介いたします。


お名前が記されていませんでしたので、
仮に、「トトメス3世」さんと呼ばせていただきます。
題して、
「京のヒバリは、何と鳴く?」
です。
それでは、トトメス3世さん、どーぞ。


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マメ太郎さま

昨日、12月22日の「ちりとてちん」、泣けました。
小草若の「寿限無」で泣かされた回以来の感動でした。
特に昨日は、渡瀬恒彦の草若が良かった。
草々が戻ってきたところを縁側から駆け下り、
ぱし〜ん、と一発殴るまでの表情が、すべてを物語っていて
けだし名演というべきでしょう。


さて、スペインの北東部、ピレネー山脈の南側に位置するのがカタロニア地方。
このカタロニア地方を飛ぶ鳥はピース、ピースと鳴くのです・・・といえば、
クラシック音楽に関心のある皆様にはおなじみの名セリフです。
1971年10月24日国連デー、ニューヨークの国連本部で行われた国際平和賞授賞式の席上で、
当時94歳になっていた名チェリストパブロ・カザルスが行ったスピーチの
締めくくりの言葉でした。
カタロニアはカザルスの故郷なのですが、
独裁者フランコ政権下に留まることを潔しとしなかったカザルスは故郷を離れ
終生、平和への願いのメッセージを発し続けたのでした。


「私の故郷、カタロニアの鳥は、ピース、ピース(平和)と鳴くのです」
スピーチを締めくくったカザルスは、椅子に座り、
カタロニアの民謡「鳥の歌」を演奏したのでした。
音楽史上に残る名場面。
このときのスピーチの一部らしい映像は
皆さん大好きYouTubeにもアップされています。Discurs d'en Pau Casals a les Nacions Unides - YouTube
「カタロニアの鳥は・・・」のくだりの前で切れているらしいのが残念ですが
"Let me say one thing.I am a Catalunya.・・・”
と英語でゆっくりとかたりかけるカザルスの姿は
昨日の「ちりとてちん」同様、胸を打ちます。


さて、スペインでは雨は平野に降り(「マイ・フェア・レディ」ですね)、
カタロニアの鳥はピースピースと鳴くのですが、
京都のヒバリは何と鳴くのでしょうか?


ちりとてちん」の前半部分、
B子が草若に弟子入りするまでの部分で重要な存在だったのが
草若口演「愛宕山」でした。
これは渡瀬恒彦さんご自身のもので、
ドラマの前半部分では繰り返し私たちも耳にしてきたものでした。
お座敷遊びにも飽きた金持ちの旦那が、
お供を大勢引き連れて春の京都の西山へ遊びに出かける。
ここはのどかで華やかな京都郊外の描写によって
私たちを気持ちの良い野辺へと連れて行ってくれなければなりません。
「レンゲ、タンポポの花盛り・・・」ときて、うららかな陽射しが包まれた・・・その時。
「空にはヒバリがピーチクパーチク、ピーチクパーチク」。
えっ!!?
おいおい・・・草若師匠・・・
京都のヒバリがピーチクパーチクか?
しかもピーチクパーチク、ピーチクパーチクと二回もか?


私は別に、米朝のとおりに演じなければダメだという楽しみ方はしていないのですが、
ここのところは京の野遊びの描写、
あくまで柔らかく典雅であるべきだと思っています。
それが、おてもやんじゃあるまいし、ヒバリがピーチクパーチク・・・。
語感もリズムも悪いし、春ののどかな風景がぶち壊し。
ちなみに米朝のこの部分は「空にはヒバリがチュンチュンさえずって・・・」。
これです。「愛宕山」の中では、ヒバリはチュンチュンでなければダメです。
そして、そういうところにまで気を使っているのが話芸としての落語であるし、
意識はしなくても私たちは、そういう行き届いた工夫があるからこそ、落語を楽しめるのです。


脚本のせいなのか、演出のせいなのか。
先日の放送で、
「私はこう見えても女の落語家としては五本の指に入るのです」という
桂あやめのギャグが突然、しゃあしゃあと使われていたときにもびっくりしましたが、
(もちろんあやめさんには断ってあるのでしょうが)
ヒバリのピーチクパーチクはいただけませんね。
ダメです。
今朝の渡瀬の名演に泣かされたので、ちょっとそのことを思い出しました。


カタロニアの鳥はピース、ピースと鳴きます。
京のヒバリはチュンチュンと鳴くのです。

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以上です。
いかがですか?
マメ太郎が、かみくだいて説明すると。
落語「愛宕山」での


○「空には、ヒバリが、ピーチクパーチク、ピーチクパーチク」と、
この部分が、絶対的にダメダメ


なのだということです。
指摘されるまで、気づいてはいなかったのですが、
たしかに、CD、DVDを聴き直してみたところ、
米朝、枝雀、吉弥などなど、
「チュンチュン」(あるいは「チューチュー」とも聴こえる)です。
ただし、これは桂米朝一門。
他の上方落語家で、「ピーチクパーチク」(2回繰り返し)と
演ずる型があるのかは、不勉強で存じません。


ただし、たしかに「ピーチクパーチク」は、
「うるさい」(「そんなピーチクパーチク、喋りなさんな」とか)
という意味が強いですし。
さらに、草若バージョンの録画を見返してみると、
リピートは、クドい。


落語家ドラマですから、
高座のシーンには、細心の注意を払っていることでしょう。
まして「芸の伝承」がドラマをつらぬく主軸です。
なぜ「ピーチク・パーチク」×2 が採用されたのか。
マメ太郎も、ちょっと気になりますし、知りたいです。


トトメス3世さん、ご指摘、まことにありがとうございました。
また、「愛宕山」は、現在、桂米朝一門以外では、
現役CD、DVDが、ございません。
どなたか、他の笑福亭、桂春団治桂文枝の系統で、
「ピーチクパーチク」と口演されたものをご存知でしたら、
ぜひご教授下さい。
ちなみに、桂文枝ソニー盤「愛宕山」では、
「空では、ヒバリ」云々の喋りは、なし。


なお、トトメス3世さんのご指摘は、
上方落語についてですので、
江戸バージョンは参考になりませんが、
一応、お伝えいたしますと、
古今亭志ん朝バージョン(ソニー盤)でも、
「空では、ヒバリ」云々は、ございません。