地球滅亡の日(その8) 桂米朝の「風の神送り」

ちりとてちん」徹底解剖ブログの
棹尾(とうび = 最後)を飾る 超大型企画!


地球滅亡の日、
遠藤マメ太郎は、どの落語を聴きながら、
サッカーの欧州選手権「1996年イングランド大会」の準決勝
「ドイツ VS イングランド」戦を、
ベストマッチと定める
その生涯を 終えようとするか!
→ 地球滅亡の日、「寿限無」を聴くか? - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ


ベスト3は、桂米朝さんの「風の神送り」です。
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かぜのじんそうり、ではなく
「かぜのかみ おくり」。
「風邪」のことです。


町内で、悪い風邪がはやっているさかい、
それを送ってしまえば(ポイとやっちゃえば)、
流行もおさまるのやないかと、
医学が発達せなんだ 時代には、考えよったんですな。


その昔、ラジオからエアチェックした音源では、


「今日は、古い中でも
 とびきり古いお噺を 聞いていただきますが
(小拍子が、チョーン!)」


という冒頭で、始まりましたな。


すっかり埋もれていた噺を、
先人からの聞き伝えや、
文書(もんじょ)での記録をたよりに、
米朝さんが、昭和42年ごろに復活させた
上方落語です。


この1席も、落語によくあるパターンでして。
「風の神送り」という町内イベントを行うために、
町内の有志が、相談役のおやっさんと 連れ立って、
あの家、この家をまわって、
イベント運営費を、集金するというのが、
噺の骨格でございます。


竹の子医者(まだ ヤブにも、ようならん)が、
「いらざることを さなるな」と諌めたり、
(↑ はやり風邪で、もうかってるからです)
ひどいケチのところで、ひどい目にあったりと、
1軒1軒
ひとりひとりが、キャラ立ちしてます。


あるダンナに囲われている2号さんとこにも、
集金に参りまして。
ま、金には不自由してませんから、
1分(いちぶ)という
たいそうな金額を
寄付してくれます。


それに喜んだ 町内の若い衆は、
奉加帳(ほうがちょう。寄付金を記録するノート)にですね、


「おてかけ様、様、様、様、様、様と、
 様の字、5、60書いて、
 町内を、ワーっと 練って歩こ」

まったく意味のないことをゆうて、
悦にいっております。
これが、無条件におかしいのです。


また、特筆すべきは、相談役のおやっさん
落語にでてくる おやっさんやご隠居さんは、


・ 偉そうにしていて、じつは腑抜け(ふぬけ)
・ やっぱ、たよりになる


2パターンに 大別できます。
落語史上、もっとも頼りにならず、
また、マルキ・ド・サド作『美徳の不幸』の
ヒロインである ジュスティーヌのごとき
悲惨な一生を終える おやっさんには、
落語「ふたなり」の おやっさんが いてますが。
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この「風の神送り」にでてくる
おやっさんこそ、後者の代表格にして、
これぞ! ちゅう
カッコええ おやっさんです。
ねぇ、おやっさん
そうやな、おやっさん
たしかになぁ、おやっさん


この上方落語
盛り上がりがあるわけでも
ドラマが展開するわけでもない
なんとはない1席ではございますが。


すがすがしい。


風邪で弱っている人を 励まそうと、
不審の目でみられながら、
町内中をまわって、寄付金をあつめて、
賑やかに、風の神のハリボテ人形を、
河に 流す。


そうですねぇ、
プラザ合意に 端をはっした円高ドル安への誘導、
ならびに 余剰資金の不動産と株式への投下により
バブルという時代になってから
すっかり なりをひそめた
「地縁」ゆうもんを、
地球滅亡の日に、しみじみ振りかえってみたく存じます。


そして、その折には、
せっかくですから、


コクヨのノートに、
「おてかけ様、様、様、様……」と
様の字、5、60書いて、
町内を 練って歩いてみたく 存じます。