衝撃の「たちぎれ線香」


「ちりとて」2008年版の ナイスウィークに
ノミネートされるであろう
昨週の第17週 「子はタフガイ」(演出:井上剛)。


一週間を象徴する落語が、若旦那と芸者・小糸の
純愛ロマン「たちぎれ線香」でした。
上方落語家の代表ディスクとしては、
桂吉朝さんと、桂文枝さんのを、
↓ ご紹介いたしました。
[rakuten:book:11777548:image:small]  桂文枝8「莨の火(たばこのひ)」「たちきれ」


かの噺、上方落語 屈指の名作であり、
お店(おたな)のことを案ずる番頭はんと、
小糸の最期を みとったお内儀さんが、
重要パーソンであることは、再三、お伝えしましたが。
→ ついに出たな 「たちぎれ線香」 - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ
→ 「たちぎれ線香」の 完成品 - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ
→ http://www3.nhk.or.jp/asadora/topics/06_rakugo/no12.html


昨年、2007年3月25日(日)、
衝撃的な「たちぎれ線香」を 聴きました。
ところは、東京・日比谷公会堂
春風亭小朝さんの「スペシャル独演会」にて、
でございます。


番頭、なんです。番頭の人物造詣が、
いと をかし、なのでした。
この番頭はん、それまでマメ太郎が聴いていた
上方落語バージョンによりますと。


「お店・至上主義」。キツいこともいいますが、
それもこれも、お店の行く末を案じてのこと。
若旦那が立派な主人になるためやったら、
憎まれ口も、たたきます。


そやさかい、若旦那をたぶらかしてると 思うてる
芸者・小糸に対しては、キツい、キツい。
若旦那を、倉に閉じこめから、
毎日届いていた手紙が、80日目にとだえると、
鼻で笑って ひと言、「色街の恋も、80日」。


死ぬの死なんのと 大騒ぎするフリしても、
しょせん芸者なんて、脈がないとわかったら、
手紙さえも、よこさなくなると、
うそぶきます。
非情のライセンス」です。


が。
小朝さんの「たちぎれ線香」は、違ってました。
まず、100日の約束だったはずが、
若旦那は、80日で、倉を出されます。
その理由を、番頭はんは、


「毎日届いていた手紙が、
今日80日目で 途絶えました。
 なんかあったのかも知れません。
 一刻も早く、小糸さんのもとへ!」。


なんというコペルニクス的 転換。
この脚色によって、ユーミンじゃないけど、
「やさしさに 包まれたなら、
 眼に映る すべてのものは、
 メッセージ」に、なったのです。


歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」。
要するに、「赤穂浪士の討ち入り」には、
斧定九郎(おの・さだくろう)という脇役がいました。
出てきたと思ったら、鉄砲の流れ弾にあたって死んじゃう
ホンの端役に過ぎないのですが、
この役を、名だたる 大名題(一流役者)が演じる
大役に 仕立て直したのは、
江戸時代の歌舞伎役者・中村仲蔵


春風亭小朝バージョンの「たちぎれ線香」における
番頭さんの人物造詣も、
そんな 仕立て直しに匹敵するような
衝撃を憶えました。


はたして、そんなアレンジがいいのかどうかは、
長〜い 時間が判断すること ですが。
カッチリと、もうアレンジする余地がないと
思われていた落語「たちぎれ線香」に、
「みんな ひとの子」
「だから悲劇度が、いっそう増す」
という新解釈をほどこした小朝さんは、
やっぱ スゲえな、と感服した次第です。