「ゴロニャン」と子ネコが、恋しがる


リトル草々が、お父ちゃんのこしらえた座布団にスリスリしたくて……、という本日放送分。この元ネタは、上方落語「猫の忠信」(ねこのただのぶ)です。
ストーリーに踏みこみますので、「白紙の状態で、聴きたーい」というお方は、これから先は、「入場禁止」。推薦盤だけ、参考にして下さい。


推薦盤は、こりゃもー、人間国宝に尽きるでしょう。
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桂米朝「猫の忠信」のオススメ度(☆5つが満点。★は0.5点)
ストーリー    ☆☆☆☆☆
ディレッタン度  ☆☆☆☆☆
初心者向け    ☆☆★


初心者向け度が、浅田真央ちゃんグランプリ・ファイナルでのショート・プログラムなみに低いのですが。聴いて、理解不能というわけではございません。脂の乗ったサンマの塩焼きほどに、おいしいものでございます。
しかし、歌舞伎(浄瑠璃)の知識があれば。
「サンマの塩焼き + 大根おろし + すだち + アマノフーズなめこ汁( ← フリーズドライながら、いいんだなぁ、これが) + 炊きたてのコシヒカリ
ほどに、美味しさが5倍増いたします。


アマノフーズのお味噌汁には、こんな実話がございます。
さるアツアツ新婚夫婦。仮に、和央ヨウカくんとハナちゃんといたしましょう。ハナちゃんはヨウカくんに、ゾッコンです。いつも手料理に腕をふるっています。
ところが、お味噌汁が、どうしてもヨウカくんの口にあわない。利尻の昆布、枕崎のカツオ節など、最高級の食材をつかっても、ひと味ちがうというのです。
そんな折、近所のクリーニング屋・カシゲさん(仮名)から、薦められたのが、「アマノフーズフリーズドライ味噌汁」。何気なく、食卓にだしたところ、ズズっとすすったヨウカくんは、ひと言、
「ハナちゃん……、ずいぶん、料理の腕をあげたね」と、ニッコリ。
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ってなこと話している場合じゃないでしょ。「猫の忠信」です。


この上方落語じたい、元ネタがございます。浄瑠璃の『義経千本桜』(よしつね・せんぼんんざくら)です。今でもよく歌舞伎として上演される日本演劇史に残る名作なのですが。


この長大な作品の中に、狐忠信(きつね・ただのぶ)という狐の化身が出てまいります。この子ギツネちゃんは、両親と死に別れた天涯孤独の身。その昔、雨乞いのために、鼓(つづみ = 小さなタイコです。「ヨーーーー、ポン!」)を奉納することになり、可哀想なことに、父ギツネと母ギツネは、その皮にされてしまったのです。


で。いまその鼓は、源義経の恋人・静御前(しずか・ごぜん → 和菓子じゃないです)が持っています。そこで、この子ギツネは、鼓に姿をかえた親ギツネ恋しさに、源義経に姿をかえ、静御前に近づく、というストーリーでございます。


みなさん。疲れたでしょ、長くて。でもまだ、これで半分です。


この浄瑠璃義経千本桜』を元にしたのが、上方落語『猫の忠信』です。
キツネですから、鼓。じゃあ、ネコは? そう! 三味線。
やはり、親ネコが三味線の皮にされてしまった子ネコちゃん。いまその三味線は、町内の色っぽいお師匠さんのもとにございます。そこで、町内の色男にバケて、師匠のもとに近づくわけでござります。


もっとも、かかる事実が明白となるのは、40分間をこえる噺の一番さいご。
マクラで浄瑠璃にまつわるエピソードを散りばめ、笑いながら、基礎知識を植えつけ。
本題は、浄瑠璃愛好者(聴くだけじゃなくて、うなる方も)の横恋慕でスタート。
やがて、町内の色男(ただし既婚)が、2人いるというミステリー仕立てに。
クライマックでは、子ネコの述懐(しゅっかい)で涙ナミダ……。構成・筋立て・細かな演出まで、文句のつけようのない傑作でございます。


失われつつある江戸・明治の芸能・風俗を語り伝ようと、粉骨砕身(ふんこつさいしん =サンマの骨を叩いて、身をすりつぶして、つみれ汁を作ること、じゃないっすよ)してはった桂米朝・師匠のことですから、なるべーく、現代のお客さんにもわかるようにと、くだいて工夫されております。


また、この噺に登場する連中の名前は、上方落語の定番「喜六(きろく)」に「清八(せいはち)」ではございません。これにも、ちゃーんとワケがあるのです。初めて聴いた折には、そのなぞ解きに、座りションベン(すみません)しそうになるくらいの衝撃を受けました。


東大落語会・編『落語事典』(青蛙房)によれば、この噺の作者は、初代・笑富久亭松竹という方です。現在でいったら、井上ひさしさんクラスの天才ではございませんでしょうか。