熱いお茶が、身も心も


しかしまぁ、「ちりとてちん」の脚本のいいところは。
なんと言うたらいいのでしょう。
物語をつき動かすエピソードが点ではないし、単線でもないという点ですね。
ひとつのエピソードが、直列に(つまり別の何かを生みだす)、かつ並列に(別の人物も描写する)に、新たな道筋を照らしてくれるのです。


A子に向かって悪態ついたB子に、草々にいさんは、
「お前は、落語家になる資格はない!」
こう怒鳴りあげます。
きっと、草々もこの瞬間、「あちゃ、言わな良かった」と思ったでしょう。
そう言うた本人が、まさに、他人を喜ばせる落語家として失格なのですから。
これで、2度目の気まずい空気が漂いますが。


仲裁は時の氏神。(← ちょっと意味ちがうか)
カメの甲より歳の功。(← これはOK牧場)
その草々に向かって、師匠が静かな口調で、「お前、相手見て、もの言えよ」とピシャリ。
要領わるうて、気ぃつかんで、ひがみ根性で。
でも、根は純にして、傷つきやすいB子の性格を、ちゃーんとわかっているのですね。


自分で自分に愛想(あいそ)が尽きたB子に。
師匠は、一杯の日本茶を差し出します。ちゃんと熱湯を湯呑みに入れて、摂氏87度(推定)までさまして。
(注) 日本茶は、熱湯でいれたらあきまへん。味も香りもとんでしまいますよって。


声をかけて慰めてくれるんじゃない。他人がこうして欲しいということを、さり気なくする。一杯のお茶をすすりながら、身も心もあったかくなったB子は、「これが、他人を喜ばせることかぁ」。
そう悟れば、単純明快なB子のエンジンはフル回転。心をこめて、水道の蛇口までみがきあげ、いわれなくとも師匠の持ち物を察しと、総身に知恵をはたらかせ、日々精進します。そして、めでたく師匠から、


「明日から、稽古つけるさかい」
ずいぶん急展開ですが、よくぞ14分間(テーマソングと「ただいま修業中」を除く)にまとめあげたものです。