「忠臣蔵」ネタの最高峰


(前回に続く) ただし26演目といっても、正直、文化財として保存を意図しているという噺が多いのも事実。

対してよく高座にかかる噺は、それだけ観客にウケる=面白いという証左です。さらに一部分だけではなく、ストーリー設定が「忠臣蔵」に題材をとっているという観点からすれば、まずは、


「蔵丁稚」
「淀五郎」
「七段目」
中村仲蔵


この4演目をおさえておけばじゅうぶんでしょう。

なかでも大ネタといえるのが、「中村仲蔵」(なかむらなかぞう)です。主人公は、江戸時代の実在の人物。サラブレッドではなく、実力一本で大看板に出世した歌舞伎役者です。

今でこそ「仮名手本忠臣蔵」五段目の斧定九郎(おのさだくろう)という役どころは、当代では中村吉右衛門片岡仁左衛門という超一流役者がつとめる人気役。しかし仲蔵の時代は、二流の役者にあてがわれるチョイ役でした。

落語では、歌舞伎脚本家の嫌がらせにこの定九郎役をふられた仲蔵が、命がけの役づくりによって、歴史に残る登場人物を産みだします。生い立ちから、役者のランクづけ、師匠・市川団十郎との出逢い、夫婦愛、クライマックスまで、ぜんぶを語れば1時間を超えるまさに大ネタです。

愛聴ディスクは、三遊亭円生の「円生百席(30)」。スタジオ録音ですから、流れや雰囲気で聴かせるのではなく、まさディスクに刻まれた声の芸術品です。

三遊亭円生の「中村仲蔵」のオススメ度(☆5つが満点。★は0.5点)
ストーリー   ☆☆☆☆☆
芸術点     ☆☆☆☆☆
初心者向け  ☆☆☆★

圓生百席(30)中村仲蔵/長崎の赤飯

圓生百席(30)中村仲蔵/長崎の赤飯


以下マニアネタですが。
ソニー・ミュージック時代にこのディスクを制作した京須偕充(きょうす・ともみつ)プロデューサーは、数多くの落語レコード・CDを企画した名伯楽。
落語は、VSOP(ベリー・スペシャル・ワンナイト・パフォーマンス=ひと晩で消えてしまう、その場限りの芸)という風潮にあって、貴重な音源をテープ・レコード・CDとして残し、地方在住者や後世のファンにも名人芸を堪能できるよう伝統芸能を伝えた功労者です。
生粋の江戸っ子にして、寄席体験・知識・評論・解説などなど、落語全般における当代の第一人者。京須プロデューサーのご託宣、ゆめゆめ疑うことなかれ。(了)