地球滅亡の日(その9) 金原亭馬の助の「棒だら」

ちりとてちん」徹底解剖ブログの
棹尾(とうび = 最後)を飾る 超大型企画!


地球滅亡の日、
遠藤マメ太郎は、どの落語を聴きながら、
個人的ベスト・ミュージカルは、
ジョナサン・ラーソン作『レント』か、
それとも
ロイド・ウエバーの『サンセット・ブルバード』か、
決めかねる
その生涯を 終えようとするか!
→ 地球滅亡の日、「寿限無」を聴くか? - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ


スト2に、これを選ぶ人は、いないでしょう。
しかし、強烈なのです。
酔っ払いの噺です。
と、同時に、世相批判を 秘めております。


初代・金原亭馬の助さんは、昭和3年、東京生まれ。
昭和50年、48歳の若さで 没します。
五代目・古今亭志ん生の門下です。


お噺は、と申しますと。
ここは、料理屋の2階。
襖(ふすま)をへだてて、
2組が 呑んでるのですが。


いちじく組さんは、江戸っ子ふたり。
うち、ひとり「江戸っ子B」は、酒乱(しゅらん)。
すごい カラミ酒です。


もう一方の らっきょう組さんは、鹿児島県人会。
元・武士らしく、羽振りが良い。
篤姫」みたいな鹿児島弁 丸出しです。
ちなみに 時代設定は、明治です。


鹿児島県人会が、
「百舌(もず)のくちばし」という
謎の拳(けん = お座敷遊び)を 絶叫すれば。
江戸っ子Bは、
「ウラの窓から コンニャク なげて
 コンニャク(今夜こい)との 謎かしら」という
都都逸(どどいつ)で 対抗します。


鹿児島県人会も、負けてません。
「十二ヶ月」という必殺ワザを 繰り出します。
「お正月(おしょうがち)は〜、松飾りぃ(まちかざりぃ)
 二月(にがちぃ)は、初詣(はちもうでぇぇ)」


この「百舌のくちばし」(もずのくつばす)、
そして「十二ヶ月」(じゅうにかげち)、
強烈です。
なんだか、ワケわかりません。
でも、意味あるんです。


とにかく、
いまや、この「江戸っ子B」のような
筋金入りの 酔っ払いになってしまったマメ太郎の
将来を 予感させるような、
「棒だら」との 出逢いだったのです。


さて、
冒頭に申し上げた 「世相風刺」ですが。


ご維新(明治維新)になってですね、
花のお江戸には、
薩長土肥(さっちょうどひ)
すなわち 鹿児島と、山口と、高知と、熊本の
勤皇の志士たちが、
ドカっと、流入いたしました。


で、当然、羽振りがいいわけです。
で、当然、土着の江戸っ子は、面白くないわけです。
で、勤皇の志士たちを、
「イケてないじゃん」と 笑っていたわけですよ。
「棒だら」は、まさにそんな1席でして。


ま、こ〜ゆ〜と、
すぐに、


「落語とは、すぐれた文明批評でもあった」


「言論が公にできない 不平不満を、
 庶民は、大衆芸能というオブラートにくるみ
 ひそかに 笑い飛ばしていたのである」


という 結論にみちびき、
悦に入る方々も、いらっしゃいますが、
そんな たいそうなことではなくて。


まず、「江戸っ子B」と「鹿児島県人会」の
仁義なき戦い
どっちが悪いでしょうか。


もし、裁判員制度が導入されて
マメ太郎が、選ばれたら、
「江戸っ子B」に 懲役3.14年です。
悪いのは、こっちです。
鹿児島県人会は、もちろん無罪放免です。


で、
この1席を 最初にきいた30年も前から、
現在にいたるまで、痛感することは。


新体制と 旧体制とは、常に対立し、
旧体制は、新体制を クサすことで、
鬱憤(うっぷん)を 晴らそうとする。


そして、
フランス革命や、
明治史・昭和史が 示す通り、
新体制は、たちまち 腐敗し、旧体制化します。


そんな歴史の必然を、
マーラー、ダントン、ロベス・ピエールも
西郷さんも、乃木将軍も、安倍晋三さんも
登場することなく、
「棒だら」は、
料理屋の2階という 空間のみにおいて、
見事に 象徴描写しているのです。


そんな歴史を、リアルに感じさせてくれるのは、
 ↓ 意味不明だと思いますが、


「タヌキゃ、ってえのは、おめえか?」
「ポンポコってえのは、てめえか?」


これら、実際にあったであろう
明治初年のセリフを、
いまなお、説得力もって
「ありそう」と思わせる
馬の助さんの 確固たる話芸があればこそと
存じ上げ奉りますです。


馬の助さんの「棒だら」、
カセットテープ紛失の のち、
長らく 聴けずにおりました。
ポニーキャニオンから、「馬の助 名演集」シリーズが
出ていたのですが、それにも収録されてませんでした。


しかし、
待てば カイロとカルカッタ
10年ほど前、


協力:星企画
発売 販売:ゲオ販売


というクレジットにて、
古典落語の巨匠たち」というシリーズが
刊行されまして、
その中に、「うどん屋」「牛ほめ」とともに、
収録されたのです。


「昭和40年前後」 とだけ記され
収録日は不明ながら、
東京・上野の鈴本演芸場でのライブ収録。
昔きいた カセットテープのスタジオ録音盤と
細部にいたるまで、
同じ内容でした。


この日のトリをとっていることが、
マクラからうかがえ、できばえも グー。
めでたく、地球滅亡の日にそなえることが
できたとですたい。
ありがとう、星企画、ゲオ販売。