地球滅亡の日(その3) 立川談志の「黄金餅」

歌舞伎は、おおきく2種類に大別されます。
「時代もの」と 「世話もの」。


菅原道真とか、源義経とか、
まぁ、お公家さんとかお武家さんが、
天下統一や、お家騒動に 血をたぎらせるのが、
「時代もの」。


一方の「世話もの」(せわもの) ゆうのは、
下級武士や 庶民が、あわれを誘う お芝居です。


そして、文化文政という
江戸時代後期になりますと、
「生世話」(きぜわ)とゆう
新たなジャンルが 誕生します。


歌舞伎の「世話もの」では、
こざっぱりとした庶民が 登場いたしますが、
現実は、そんなキレイなもんじゃない。


どの時代でも かわらんことには、
貧困やら、ねたみやら、うらみやら、
心に暗〜い闇を 抱いて 生きている。
また、正直者が バカをみて、
悪知恵はたらかすもんが、ウハウハ いい目をみる。
そんな 心理の闇や、社会の矛盾を、
セキララに描写したのが 「生世話」で、
東海道四谷怪談』で おなじみの
四世 鶴屋南北(つるや・なんぼく)が、
その代表格です。


ちょっと、前置きが 長くなりましたが、
ちりとてちん」徹底解剖ブログの
棹尾(とうび = 最後)を飾る 超大型企画!


地球滅亡の日、
遠藤マメ太郎は、どの落語を聴きながら、
女流囲碁棋士中島美絵子ちゃんの
スピード結婚の報に、なぜか動揺したりした
その生涯を終えようとするか!
→ 地球滅亡の日、「寿限無」を聴くか? - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ



第8位は、立川談志の「黄金餅」(こがねもち)です。
ラジオか テレビでの放送を、
ラジカセで 録音したものでしたが、
これは、衝撃的でした。


主人公は、金兵衛(きんべい)さん。
お隣に住んでいるのが、乞食坊主の西念さん。


西念さん、貧乏暮らししてたんですが、
じつは、たんまり銭をためこんで、
いまわの際に、あんころ餅にくるんで、
飲みこんで、ポックリ、あの世 ゆき。
死体には、なかなかな銭っこがあることを知るのは、
金兵衛さんだけ。
ならば、火葬のあとに、ちょうだいしちゃおうとゆう
1席でございます。


もともと、古今亭志ん生バージョンで聴いていたのですが、
談志バージョンには、驚いた。
同じ噺でも、演者によって、
テイストが まったく異なるものだと、
アット・ファーストに 認識した 
1席でございます。


陰惨なストーリーですが、
さて、どう演じるか?
志ん生バージョンは、つとめて明るく、笑いをとります。


ひるがえって、談志バージョンは。
貧困の世界から抜け出そうと、苦しみもがき、
バチ当たりな行為に 手をそめようとする自分を、


「ウナギ ってぇのが
いったい どんなものなのか
いっぺん味わってから
死にてぇもんなぁ」


と、正当化させます。
まさに、「生世話」の極北でございます。


このあたり、落語CDの名プロデューサー
京須偕充(きょうす・ともみつ)さんは、
著書『ガイド 落語名作100選』(弘文出版)にて、
こう評して いらっしゃいます。


…………………………

立川談志は、日暮れから明け方までの、夜の世界にうごめいた さまざまな人間の妄想を生々しく描いて苦い笑いをとる。あるいは救いようが なくなるかもしれない ききての気分を開放するのは、この人ならではの したたかな講釈調快弁による道中の言い立てである。

…………………………


な〜るほど。
ちなみに。
「道中の言い立て」と申しますのは、
落語「黄金餅」を 語る上で、
ぜーったいに、ハズせない くだり。
聴かせどころです。


金兵衛さんと西念さんの長屋は、下谷の山崎町。
江戸の 北東です。
そして、ともらった お寺は、
麻布の木蓮寺(もくれんじ)。
いまや 高級住宅街ですが、
当時は、タヌキがすんでいた 西南のはずれ。


早桶をかついで、
遠路はるばる 葬列の一行が でかけるのですが、


「わーわーいいながら、下谷の山崎町から 上野の山下へ出て
 三枚橋を渡って、上野の広小路、ここから御成街道を真っ直ぐに……」


まさしくリアリスティックに、
どの町を通過し、どの角を曲がり、
時には、そこには「おかめ団子」ってえ団子屋があった
などなど、
トリビア情報を散りばめながら、
地下鉄つかっても、30分はかかろうという
葬礼の道中を 実況中継するのです。


ちなみに、下谷から麻布まで、
ヤフーの路線情報で、検索したら、
地下鉄つかっても 最短で29分間、
距離にして 10キロもありました。
ラソンの 4分の1の距離を、ご苦労さまです。


さらにぃ!
談志さんの スゴいところは。
現在持っております、CDは、
昭和44年収録と、昭和47年収録の2種類なのですが、

ともに、
このルートを、
現在(当時) 歩いたら、どうなるか
これを、延々と、再現しているのです。


上野日活、松坂屋風月堂
ヤマギワ電気、肉の万世
ブリヂストン、海苔の山本山、ふとんの西川
テアトル東京、プリンスホテル などなど。


日本で一番 賑やかな交差点
東京・銀座四丁目を 通過するところでは、


「左が、三越でございます。
ハンバーガーが ずいぶん 売れてるねぇ」。


そう。
これって、マクドナルド1号店のことなのです。
マック1号店の出店は、昭和46年。
よって、昭和43年バージョンには、ありません。
これが、47年バージョンには、
ちゃーんと 当時 話題の世相として 取り入れているのです。


時代とともに歩んできた
談志落語の 面目躍如です。


他にも、のんだくれ坊主の ヘンテコな お経あり。
立川談志の 才能がほとばしる 1席でございます。


最後に。
山本山で、思い出しましたが。
回文(かいぶん)って、ありますね。
上から読んでも 下から読んでも同じとゆうやつ。
ポピュラーなのは、


● 竹やぶ 焼けた(たけやぶやけた)


長いのになりますと。


● なんて躾(しつけ)いい娘(こ) いいケツしてんな
 (なんてしつけいいこいいけつしてんな)


そして、著名人 3大名作がございまして。


● 掛布のフケか (かけふのふけか)
● 宇津井健 神経痛 (うついけんしんけいつう)
● 談志が、死んだ (だんしがしんだ)


参考文献:片山まさゆき『ぎゃんぶら〜自己中心派』より「迷彩レディの巻」