地球滅亡の日(その1) 古今亭志ん生の「猫の恩返し」

ちりとてちん」徹底解剖ブログの
棹尾(とうび = 最後)を飾る 超大型企画!
地球滅亡の日に、
遠藤マメ太郎は、どの落語を聴きながら、
不本意な その生涯を終えようとするか!
→ 地球滅亡の日、「寿限無」を聴くか? - 「ちりとてちん」徹底解剖ブログ


第10位は、古今亭志ん生の「猫の恩返し」です。
全国2000人におよぶ コアな落語ファンのうち、
1935人は、ベストテンの中に、
志ん生から なにか1席を挙げることでしょう。
その率、96.75%。


しかし。
猫の恩返し」を挙げるのは、
世のなか広し、五木もヒロシといえども、
ついでに、黒鉄ヒロシといえども、
いやいや キーボーとヒロシといえども (順番が逆や)
さらには、明日ヒロシ順子といえども、
不肖・遠藤マメ太郎ぐらいなもの ではないでしょうか。


志ん生といえば、なんてったって「火焔太鼓」ですし、
廓ばなし、人情ばなしにも、名演がズラリと揃ってます。
文部大臣賞に輝いたのは、女郎のおはなし「お直し」でした。


しかも。
志ん生における「1961年問題」を、ご存知ですか?
この年の暮れ、志ん生は脳溢血で倒れ、
カムバックをはたしますが、
その後の高座は、ちょっと呂律(ろれつ)がまわってない。


だから、志ん生のCDを買うのなら、
「1961年(昭和36年)」以前のものがよろしい。
現在発売中の月刊誌『中央公論』4月号(3月10日発売)にて、
読売新聞記者の長井好弘さんが、
「オススメCD & DVD 特選30」でも
書かれていらっしゃいます。


これって、常識中の常識でありながら、
あえて、「猫の恩返し」とは。


猫の恩返し」、はっきりいって、
そうたいした物語では、ございません。


さらに、愛聴しているビクター「落語特選」シリーズは、
1966年(昭和41年)の収録。
呂律、まわってません。


しっかし。
マクラが すんばらしいのです。


・ 左甚五郎と 猫ちゃんとの 架空会話
・ 猫好き花魁(おいらん)と 客の ああ勘違い
・ 雪姫伝説のうた


などなど。
ゆーったりとしたテンポの中に、
まさにバカバカしくも
かわゆらしい 小ネタが散りばめられています。
ホントに他愛のない 小ネタです。
左甚五郎と、猫ちゃんとの架空会話なんて、こんな具合。


左甚五郎とゆえば、日光東照宮の「眠り猫」にて
牡丹(ぼたん)を 彫ってます。
ネコなら、マタタビを彫りそうなものですが、
なんで、牡丹か?
甚五郎クラスの 名人になりますと、
猫とも 会話ができたんじゃないか


甚五郎 「お前の眠いのは、いつごろだい?」
眠り猫 「んーん、牡丹の季節が 眠いよぉ」


これだけ。
たった これだけなのですが、
場内(東京・イイノホール)、
爆笑の渦 なのです。


その面白さを、文字で説明することは不可能。
まさに、不立文字(ふりゅうもんじ)。← ちょっと違うか。
地球滅亡を前にして
禅の悟りの境地へといざなってくれる
1席ではないでしょうか。


残念ながら、現在、CDでは現役盤はないようで、
リサーチした限りでは、講談社・刊のDVD全集の
第2巻に収録されているようです。

講談社DVD・BOOK志ん生全集 志ん生復活!落語大全集第二巻

講談社DVD・BOOK志ん生全集 志ん生復活!落語大全集第二巻


脳溢血で倒れたのは、1961年(昭和36年)
猫の恩返し」の収録は、1966年(昭和41年)
最後の高座は、1968年(昭和43年)
亡くなったのは、1973年(昭和48年)。


ファーストチョイスとしては、
1961年以前のCDが 良いでしょうが、
そこは、昭和の大名人。
それから以降の録音も、いい味を出しているんですよ。


剛速球派から、歳をとるとともに、一転、
どこから球が離れるかわからない
ゆったりとしたフォームと、
読みとコントロールに冴えた 技巧派に転向し、
広島東洋カープを日本一に輝かせた
江夏豊を、思い起こさせます。